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 ■■■地形・地質観察ガイド-高山・主稜線地域-■■■
 大無間山 田代〜小無間山〜大無間山
 
 大無間山(2329m)は、光岳から南へ伸びる尾根の末端にある大きな山である。大無間山からゆるい曲線を描いて小無間山にいたる稜線は、主稜線南部の山々からたいへんよくめだつ。山頂には一等三角点があるが、山全体が樹林に黒々と覆われているので、展望はほとんど得られない。しかし、原生林の合間からときどきみることのできる景色は、深南部の山々の奥深い自然を十分感じることができるだろう。山頂から西の稜線上には三隅池があり、ここから明神谷へ水が流れ出ている。大無間山には寸又川左岸林道からも登れるが、ここでは井川の田代から小無間山をとおってピストンするコースを紹介しよう。

■ヤマメ祭りと田代の諏訪神社

■諏訪神社から小無間小屋まで

■鋸歯を越えて小無間山から大無間山へ

■明神谷の源流、三隅池 

▲上河内岳からみた大小無間山
 


 

■ヤマメ祭りと田代の諏訪神社 

 田代は井川最奥の集落である。最近、キャンプ場ができて夏には賑わうようになった。今でも8月の諏訪神社の例祭には、アマゴを献上する古来のお祭りが残っている。これは“ヤマメ祭り”と呼ばれ、静岡市の無形文化財に指定されている。
 アマゴは田代から8kmほどさかのぼった大井川支流の明神谷で釣る。このアマゴの腹に新栗の粥をつめて神に献上するという。明神谷は、三隅池から流れ落ち、大無間山の北側を流れる神聖な沢で、昔から禁漁とされてきた。
 このように祭りをとおして禁漁をつねに確認する行為は、食料資源を枯渇させないようにするのに役立ってきたという。
 
▲魚釣りを禁忌としてきた明神谷

■諏訪神社から小無間小屋まで 

 諏訪神社の参道入口には湧水があり、水をくむことができる。登山道は参道からしだいに離れ、しばらく登ると緩やかな尾根にでる。足下には川原と同じ円礫がころがっている。これは100m下を流れる大井川が残した礫だ。大井川はこの尾根に河床礫を残した後に、100mも侵食したというわけだ。これは、大地の隆起を物語っている。
 砂岩と泥岩の尾根を登っていくと南東から尾根が合わさり、気持ちのいい尾根道となる。尾根の南側を流れる大島川沿いには、新生代第三紀暁新世の放散虫化石がみつかっている。今まで中生代白亜紀と考えられていた場所からはじめてみつかった新生代はじめの化石だ。白亜紀と第三紀との境には巨大な隕石が落下し、恐竜などが絶滅したとされている。もしかすると、この付近でも白亜紀と第三紀の境界がみつかるかもしれない。
 尾根を登っていくと、黒い泥岩主体の中で、赤色泥岩や緑色岩の転石がでてくる。ここをすぎると、砂岩主体となり、礫をときどき挟むようになる。
  再び泥岩主体の岩相になり、傾斜が急な斜面を登りきると、小無間小屋にでる。小屋手前の白っぽい岩石は凝灰岩だ。小屋はもともと中部電力が管理していた古い小さなもので、現在は静岡市が管理している。
 
▲諏訪神社入口の霊水

■鋸歯を越えて小無間山から大無間山へ 

 小屋から山頂までは砂岩主体の岩相となる。小無間山までは北東−南西方向の地層を垂直に横切るやせ尾根となっているため、差別侵食によって凹凸が激しい。この凹凸の激しい部分を鋸歯と呼んでいる。凸部には砂岩、凹部には泥岩が分布している。しかし、樹林に覆われて安定しているので、それほど危険はない。
 小無間山をすぎ、歩きやすい快適な原生林の中を歩いていくと、関ノ沢本谷に向かって大きなガレができていて、展望がきく場所にでる。ここからは大無間山から風イラズへのびる尾根を正面にみることができる。このガレは唐松薙と呼ばれ、砂岩に挟まれた泥岩が崩れたものだ。
 西へ稜線を下り中無間山をすぎると、二重山稜となっていて、ヌタ場や食痕のついた樹木など動物の痕跡が目立つようになる。
 ゆるやかな尾根から急な登りがはじまると、まもなく遭難碑があり、展望のきく場所がでてくる。ここからは南アルプス主稜線と深南部の山々をみることができる。明神谷のすぐ向こうにある大きな山は大根沢山だ。台形をした山の右側にある大きなガレがよい目印となっている。
  まもなく一等三角点のある山頂につくが、残念ながら樹林に囲まれ展望はない。かつて展望が得られた櫓は取り払われている。
 
▲鋸歯をつくる砂岩層

■明神谷の源流、三隅池 

 山頂からいったんもどり、西へ稜線をたどってみよう。鞍部にでて再び登り返したところに三隅池がある。以前ここに小屋があったらしく、周辺にはトタン板などが散らばっている。
 三隅池は線状凹地にできた小さな池で、湿地化してシカのヌタ場となっている。水がちょろちょろと明神谷の源流へ流れているが、あまりきれいでなく、飲用は不可だ。神聖な明神谷の源流であるだけに少し残念だ。
 

 
▲明神谷へ水を落とす三隅池