■ロックフィルダムと光明断層
水窪川を離れ、スーパー林道入口へ向かうと巨石を積んだロックフィルダムにでる。この付近には南信濃村で中央構造線から分岐した光明断層(遠山赤石裂線)が南北に走っている。断層の西側には秩父帯のチャートが分布していて、東側には四万十帯の砂岩泥岩互層が分布している。光明断層はさらに南へ伸び、気田川沿いに南下する。西側にもこれと平行するように赤石裂線(水窪赤石裂線)が走る。これらの二つの断層は赤石山地の西側を画する中央構造線とつながっていて、中新世の頃に赤石山地を北側へ50km以上もずらしたとされている。
現在は、周囲の地形をみてもそんな大きな変動があったとは思えないが、断層両側の地質の違いや破砕帯の中に、大変動の痕跡を認めることができる。
戸中川を遡ると垂直に突っ立った黒っぽい砂岩泥岩互層がときどききれいに成層している。全体的に泥質な岩相だ。
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▲巨石を積み上げた水窪ダム |
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■さまざまな礫を含む混在岩
ゲートをすぎてさらに林道を登っていくと、砂岩がでてくるようになる。この付近の砂岩は、平行ラミナやクロスラミナがめだつものと、級化層理が顕著なものとがあり、バラエティに富んでいて面白い。支流の上足毛沢や日影沢、葵沢など水流できれいに磨かれたところで観察してみるといいだろう。
日影沢付近の林道沿いでは、黒い礫岩がある。黒っぽいのでほとんど泥岩のようにみえるのだが、よくみると、中に直径1cmから30cmくらいのいろいろな形をした礫がまばらに入っている。礫は砂岩がほとんどだが、ときどき凝灰岩や石灰岩も入ってくる。実際には、大きな礫では数mから数10mにも達するものがある。戸中山林道の本線から日影沢上流へ向かう林道の支線(日影沢林道)に入るとすぐ、石灰岩の露頭がでてくるが、これも礫の一つだ。このようにさまざまな種類・大きさ・形の礫を含んだ泥質な岩石をメランジュ(混在岩)という。メランジュはプレートが沈み込むときにできたもので付加体を特徴づける岩石だ。
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▲泥岩に含まれる石灰岩礫 |
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■黒法師岳への登り
黒法師岳へは、使われなくなって荒れた日影沢林道を少したどったところに指導標があり、ここから尾根をジグザグに登る。すぐに尾根筋にでるが、ここからは樹林の中の急な尾根道がつづく。主稜線まではほとんど砂岩なので単調だが、ときどきシルトの礫をたくさん含んだ礫岩となる。
稜線にでて黒法師岳方面へ向かうと泥岩の黒っぽいガレにでる。さらに登ると樹林に取り囲まれた黒法師岳山頂だ。山頂には全国でもここだけという、×印の一等三角点があるので、見逃さないようにしよう。
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▲樹林の中の登山道 |
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■丸盆岳への稜線歩きと鎌崩
時間があれば、丸盆岳にも行ってみよう。針葉樹とササの稜線歩きはけっこう楽しい。あちこちでシカをみることもできる。
少し気がかりなのは、針葉樹の立ち枯れが目立つことと、崩壊が進行しているようにみえることだ。立ち枯れが進んだところはササ原に変わり、シカの採餌や踏みつけがひどくなるとササ原は裸地化する。すると雨水の地表流が増えて、崩壊がはじまるというわけだ。立ち枯れは不動岳の南西斜面でもひどい。
丸盆岳はかつてハイマツが数本存在していたらしいが、どうも枯死してしまったようだ。温暖化による植生変化が原因とされているが、周辺でみられる針葉樹の立ち枯れのことを考えると、酸性雨も原因の一つかもしれない。
さらに北へ向かうと稜線の両側が崩れてナイフリッジとなった鎌崩にでる。ここは南アルプスでもっとも怖ろしい場所の一つだ。山はこのようにして崩れていくものだということを目に焼き付けておこう。
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▲侵食がすすむ崩壊の頭 |
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▲両側が切れ落ちた鎌崩 |
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