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 ■■■地形・地質観察ガイド-低山・渓谷地域-■■■
 入笠山 黒川林道〜入笠山〜大阿原湿原
 
 入笠山(1955m)は南アルプス北端の丸くてかわいらしい山だ。周辺にはよく似た丸い山がいくつもあるので、離れたところから山頂を確認するのは難しい。しかし、二等三角点の置かれた山頂は、抜群の展望を誇っている。入笠山の展望が良い理由は、日本を横断する糸魚川−静岡構造線が北東山麓をとおっているためだ。この大きな断層によって山体の北東側が落差1000mもすっぱりと切られている。地形だけでなく、地質も同様に切られていて、糸静線の向こう側には新しい時代(新生代)の堆積岩や火山岩が分布している。入笠山の周囲には牧場とカラマツ林が広がっていて、明るくすがすがしい高原地帯となっている。また、湿原や美しい渓流などの豊かな自然に加え、林道・山小屋・スキー場などが整備されているため、手軽にレクリエーションが楽しめる。 ここでは、登山口から入笠山に登り、大阿原湿原からテイ沢を下り、林道沿いに小黒川源流をさかのぼるコースを紹介しよう。

■入笠牧場と地質

■入笠山の展望

■大阿原湿原とテイ沢

■小黒川源流の岩石と高座岩

▲緑色岩からなる入笠山山頂
 


 

■入笠牧場と地質

 入笠牧場のすぐ北側の林道沿いに戸台層(白亜系)の砂岩・礫岩が分布している。この付近は変形が著しく、砂岩には劈開が入り、礫はラグビーボール状に引き伸ばされている。戸台層の変形は北方ほど強くなるため、北部ほど地下深いところまで埋没し、基盤の三波川帯や秩父帯(ジュラ系)と一緒に変形したと考えられている。
 入笠牧場に入ると、牧草の中に点々とチャートの巨岩が顔を出している。この岩石は秩父帯のメンバーだ。秩父帯の地層はここから釜無川まで分布している。入笠山は全体が秩父帯の岩石からなっている。
 
▲変形の著しい礫岩

■入笠山の展望 

 登山口の御所平峠から20分ほどで山頂に立つことができる。登山道の左側はお花畑となっていて、冬期にはスキー場となっている。登山道沿いには緑っぽい岩石が転がっているが、これは秩父帯の緑色岩だ。山頂にはチャートも転がっている。
 山頂は背の低い草原と砂礫地となっていて、展望が抜群だ。北東にはフォッサマグナに噴き出した八ヶ岳火山が雄大な姿を見せている。南にはどっしりした仙丈ヶ岳とピラミッドのような甲斐駒ヶ岳、その間には鋸岳のゴツゴツした稜線が見えている。西には中央アルプスの山並みと、山麓に連なる扇状地が美しい。
 山頂から南東へ下ると、すぐに明るいカラマツ林となり、しばらく下ると林道にでる。
 
▲山頂からみた甲斐駒と仙丈

■大阿原湿原とテイ沢 

  大阿原湿原はテイ沢の源流にある湿原だ。周囲にはチャート・砂岩・緑色岩などの岩塊の上に針葉樹が生い茂り、豊富な湧水が岩の下を流れている。これらの湧水は湿原を潤した後、テイ沢を流れ下る。
 テイ沢は岩に付着したコケと水の流れがとても美しい川だ。川に沿って良い道がつけられている。
 下る途中、ハンレイ岩や石灰岩、チャートなどを観察することができる。チャートは侵食に強いため、急峻な地形をつくりやすい。チャートの分布域では地形図に岩塔や露岩などの記号がでてくるようなる。
 
▲コケと清流が美しいテイ沢

■小黒川源流の岩石と高座岩 

 南北に流れる小黒川沿いに戸台層が分布している。東側には砂岩や泥岩が分布し、西側の斜面や尾根上には礫岩が分布している。南方の砂岩にはサンカクガイが含まれている。このサンカクガイは戸台を一躍有名にした化石だ。最近は、泥岩からアンモナイトがたくさん見つかるようになってきた。
 小黒川の西側の尾根上には高座岩と呼ばれる礫岩の岩塔がある。ここには四等三角点が設置されている。
 
▲高座岩をつくる礫岩