【春草展示第40期】ミニ解説③《花卉線香》

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2月11日から、菱田春草記念室 第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-を開催しています。展示中の作品をご紹介します。


諸家合作《花卉線香》
明治44年 個人蔵(本館寄託)

春草の通夜の際に、日本美術院の僚友 横山大観、下村観山、木村武山、寺崎広業、川合玉堂が寄せ描きした作品です。この5人は、約半年後に開催された春草追悼展に合わせて屏風作品を描き、その売り上げを春草の遺族に寄贈しました。春草にとっての彼ら、彼らにとっての春草、と画家たちの交友を想像することができます。

菱田春草記念室 常設展示菱田春草記念室第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-は3月12日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

滝沢館長による日本画実技講座

ブログ イベントレポート 今日の美博


2月25,26日に、当館館長 滝沢具幸による日本画実技講座を行いました。高校生以上の日本画初心者から経験者7名が参加しました。



胡粉と箔の使い方のデモンストレーション。
作家の手業に感嘆の声が上がる場面もありました。


説明の後は、早速各々の制作に取り掛かります。



構図や配色、ニュアンスを館長がアドバイスしていきます。


皆さんどんどん描きこんでいきました。色の重なりも日本画の絵の具ならではの魅力です。

2日間制作づけの充実の講座になりました。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第40期】ミニ解説②《山水》

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2月11日から、菱田春草記念室 第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-を開催しています。展示中の作品をご紹介します。


菱田春草《山水》
明治38年頃 
飯田市美術博物館蔵

山は仰角度に、水の流れは俯角にとらえ、霧の空間で二視点の調和を試みています。本作は下村観山の作品との対幅になっています。


下村観山《楼閣》
明治43年 飯田市美術博物館蔵

春草の作品と比べると、より遠近感を意識した空間表現をとっています。2作は同時期の制作ではありませんが、朦朧体の画風を用いて統一感のある対幅に仕上がっています。表現をくらべてみることで、先鋭な春草/手堅い観山と、制作姿勢の違いが分かります。

菱田春草記念室 常設展示菱田春草記念室第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-は3月12日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示第40期】ミニ解説①《湖辺飛雁》

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2月11日から、菱田春草記念室 第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-を開催しています。展示中の作品をご紹介します。


菱田春草《湖辺飛雁》
飯田市美術博物館蔵

奥行きや空気を描いた朦朧体期の研究の様子を伝えます。近景と遠景を霞によって二分し、それらを雁の列でつないでいます。理知的な春草らしい構成です。この作品は現在は横山大観の作との対幅になっています。


横山大観《海濱の月》
飯田市美術博物館蔵

こちらは大観らしい大胆な構図の作品です。構図は連続しており、対幅の面白味を示した作品です。しかしこの作品は、昭和初期の段階では別の大観の作との双福であった記録が残っています。いつ春草大観の対幅となったのか。研鑽を共にした2人の、同じ志と異なる個性を示した、謎の対幅作品です。

菱田春草記念室 常設展示菱田春草記念室第40期 画家たちの研鑽-春草と美術院-は3月12日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

こーとの神おーくるよ

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2月8日は「コト八日」の日です。飯田下伊那では、この日の前後に「コト念仏」や「大将荒神」、それらとセットで「コトの神送り」などと呼ばれる行事がおこなわれます。

4日におこなわれた上久堅原平の「コト念仏」は、3年ぶりの開催でした。地元の小・中学生6名が15時から20時にかけて、集落内の家、神仏などに念仏を唱えてまわりました。地域の人たちが、子どもたちに「寒いで気を付けてね」「もう少しだで」などと声をかける様子は心が暖まります。

また8日には千代の田力の「コトの神送り」を見学しました。田力では、隣の野池から笹竹を受け継ぎ、龍江の大屋敷との境まで送り継ぎます。昔は子どもたちだけでおこなっていたようですが、今は小学生に加えて、各家から一人ずつ出ています。

 

コトの神送りは、疫病など集落内の災厄を追い払う行事ですが、それらと向き合ってきたのは今の人たちだけではないことを実感します。

(民俗担当)

【春草展示複製画】ミニ解説③《黒き猫》誕生の道のり

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12月17日から、菱田春草記念室にて「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―を開催しています。
今回は晩年の名画《黒き猫》誕生の道のりを紹介します。


明治43年夏
第4回文部省美術展覧会の審査委員にはじめて任命される。審査委員に相応しい大作を出品するよう準備を始める。妻・千代をモデルに、和傘をさした女性のスケッチを何枚も描く(真夏の時期に行ったため千代は脳貧血をおこす)。本制作へ進むが、「着物の色が思ふ様に行かない」ため中断する。【雨中美人(未完成)】
その後、代わりに出品する小品に取り掛かるも、中断する。【黒き猫(未完成)】

9月30日
兄・為吉へ書簡で「出品画(雨中美人)は失敗」「小さき絹へ揮毫(黒き猫未完成)致し候得共是又同様失敗」「今更致し方も無之候」と出品断念を伝える。

10月初旬
友人の齋藤隆三に励まされ、新たに小幅1点の制作をはじめる。
10月5日には「小品壱点」を制作中で「出品致す覚悟」とパトロンの秋元洒汀へ書簡で伝える。

10月6日、8~10日は審査委員の仕事に出る。10月7日には「小幅未成」だが「両三日中完成の見込」「夜分にも執筆」して完成させようと思っていることを高橋錬逸宛書簡につづっていたが、夜中に長男が高熱で倒れる。

10月10日
「明日頃表具出来直に出品致し可申」と高橋錬逸に書簡で伝える。
つまり概算で5.6日ほどで小幅を描き、10日には既に完成して表具屋へ表装に出していたといえる。

10月11日
完成した作品を文部省美術展覧会に出品。【黒き猫】


《黒き猫》に対する春草の評価は「責塞ぎ」の「愚作」や、「駄作黒き猫」などと謙遜が甚だしいです。新たな挑戦を中断し、描きなれた画題で間に合わせる形で描いたためでしょう。しかし、もし未完成の2点で納得していれば、春草の集大成のような《黒き猫》はうまれなかったのです。琳派の造形美、院体花鳥画の気風、西洋美術の写実性が見事に調和しており、春草の研究の成果が詰まった、近代日本美術の代表作といえるでしょう。こうした様々な要件を経て、名画《黒き猫》は誕生しました。

菱田春草記念室 常設展示 「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―は2月5日まで。未完成作品2点と《黒き猫》の複製画を並べて展示しております。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示複製画】ミニ解説②《黒き猫》(未完成)

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12月17日から、菱田春草記念室にて「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―を開催しています。今回は、明治43年の制作から未完成の1点を紹介します。

 
菱田春草《黒き猫》(未完成)
明治43年 飯田市美術博物館蔵

人物画の大作《雨中美人》を中断後、第4回文部省美術展覧会の出品を目指して描いた作品です。しかしこれも未完成に終わっています。友人の齋藤隆三宛の書簡では《雨中美人》と本作の失敗と、展覧会出品を諦めるつもりだという内容を伝えています。

背景にグラデーションを施してから猫を描いている、制作の様子が分かります。画面の上には、おそらく中断を決めた後に、濃淡のある墨で柏の葉の形や木の幹のごつごつ感の表現を試し描きしています。この中断を踏まえて再び挑戦したことで、名画《黒き猫》[重要文化財] が誕生しました。

菱田春草記念室 常設展示 「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―は2月5日まで。本展示ではこの未完成作品と、重要文化財作品の複製画の2点の黒き猫を並べて展示しております。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

【春草展示複製画】ミニ解説①《雨中美人》

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12月17日から、菱田春草記念室にて「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―を開催しています。

眼病によって一度は失明の危機に陥ったものの、療養を経て快復した春草は、明治42年の第3回文部省美術展覧会に《落葉》を出品し、高い評価を得ます。その翌年には、第4回文部省美術展覧会に《黒き猫》を出品しました。

今回は、明治43年の制作から1点ご紹介します。


菱田春草《雨中美人》(未完成)明治43年 飯田市美術博物館蔵

第4回文部省美術展覧会の出品を目指して描いた、未完成の作品です。展覧会開催にあたって、岡倉天心が渡米の関係で審査委員を辞退したため、代わりに春草が任命されました。審査委員としての初めての出品作、春草は気合を入れて大画面の人物画に挑戦しました。

雨の景色を歩む女性たちを画題に決め、和傘をさした妻・千代をモデルに、様々な角度で丁寧に描きうつしたスケッチが数多く残っています。
入念な準備の末、屏風に着手しましたが、着物の色が気に入らなかったようで、淡墨の線描きとわずかな着彩のみで中断しています。

表情の見える女性は1人ですが、彼女たちの表情や話し声が伝わってきそうです。春草が目指した色彩や、自分が思う魅力的に感じるのはどのような色づかいか。想像をふくらませながらお楽しみください。

菱田春草記念室 常設展示 「落葉」から「黒き猫」へ―複製画で見る晩年の名画―は2月5日まで。ぜひご覧ください。

(菱田春草記念室担当)

中学生造形教室 掛け軸を作ろう

ブログ 今日の美博

飯田下伊那の中学生を対象とした造形の基礎講座、中学生造形教室。今年度最後の活動は、夏に描いた水墨画の表装に挑戦しました。


当館の菱田春草記念室で何度も目にしている掛け軸。構造や、配色を意識して、今回は自分が描いた水墨画の作品を、より魅力的にみせる表装を考えていきます。


八双にみたてた細い軸の入った紙、作品をはる紙、軸のついた紙の、3つのパーツを組み合わせていきます。


上の紙に穴をあけ、掛緒をくくりつけます。


土台の準備ができたら、作品の裏にスプレーのりを吹きかけ、慎重に張り付けていきます。


表具全体のバランスをみて、ぴったりの一文字を選んで貼り付けます。


しばらく乾かしたら完成!

自分だけのとっておきの掛け軸が完成しました!

(美術部門:菱田春草記念室担当)