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■福島Bコース

■木曽駒高原の扇状地と上松断層

■濃ヶ池川と大棚入山の巨大崩壊

■岩屑斜面を利用したスキー場

■花崗岩と力水

■岩尾根からの展望

■山姥の岩塊

■やせ尾根と玉ノ窪カール

 駒ヶ岳に登るには尾根をずっとたどることが多い中で、このルートは途中から山腹を巻く変化に富んだコースだ。付近には地震で崩壊した大棚入山と天然ダムの痕跡、上松断層の変位地形などが観察できる。

 登山道沿いでは茶臼山から駒ヶ岳の稜線がよく展望できる。地質は変成岩から木曽駒花崗岩へ移るのみで面白みに欠けるが、カールなどの氷河・周氷河地形はたいへん興味深い。とくに節理の発達した花崗岩の岩壁や山姥のような巨大な岩塊地は、他ではなかなか味わうことができないダイナミックなものだ。

 ここではルート沿いだけでなく、周辺の不思議な地形を含めて紹介しよう。


▲伊勢滝−木曽駒ヶ岳のマップ(カシミール3Dを利用)
■木曽駒高原の扇状地と上松断層

 扇状地はその名のとおり川が平地にでるところから扇のように広がる平坦地だ。地形図をみると、木曽駒高原の扇状地は水産試験場のすぐ下流から扇形に西方へ広がっていることがわかる。

 面白いのは、扇頂部左岸に高さ50mほどの段丘があることだ。段丘面は山地の出口にあることからもともと扇状地としてできたはずだが、現在は開析されて段丘化している。段丘面は緩やかに傾斜していて、500mほど下流側へ行くと川の流れと直行する方向の急傾斜域をへて現扇状地面もしくは山麓緩斜面に移る。この急傾斜域が上松断層によってできた低断層崖なのか、それとも土石流末端の急傾斜部なのかはっきりしないが、木曽駒高原の発達史を知る上でたいへん重要だと思う。

▲上松断層の断層暗部
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■濃ヶ池川と大棚入山の巨大崩壊

 正沢川にそって車道をのぼっていくと、樹林が茂っていて確認できないが、対岸で濃ヶ池川が合流する。この濃ヶ池川にはかつて天然ダムがあった。

 最近、この濃ヶ池をつくった崩壊地とその堆積物の調査がなされ、大棚入山の南西斜面が17世紀頃より前の比較的新しい時期に崩壊したことが分かった。このときの崩壊土砂は1千万立方メートルを超えていたという。1984年の長野県西部地震の時には御嶽山の南側山腹が崩壊して王滝川をせき止めて天然ダムをつくった。このときの崩壊土砂は3千万立方メートルだったので、これに近い巨大崩壊だったことになる。

 巨大崩壊は大きな地震で起こりやすいことから、大棚入山の崩壊も地震であったと見られている。大棚入山に大きな揺れを及ぼす地震としては、上松断層などの木曽山脈西縁断層帯や伊那谷断層帯が上げられる。木曽山脈西縁断層帯は13世紀頃に地震を起こしたらしい。また、1586年には阿寺断層系が活動して各地に崩壊をもたらした天正地震がある。大棚入山の巨大崩壊は上松断層が活動した13世紀か、阿寺断層が活動した1586年のどちらかの地震で発生したと考えられている。

▲大棚入山崩壊地の滑落崖(岩屑斜面)
▲濃ヶ池川をせき止めた岩塊
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■岩屑斜面を利用したスキー場

 登山口のある木曽駒高原スキー場は山麓から広がる広々とした緩斜面だ。この緩斜面は、赤林山付近から崩れてきた岩屑が周氷河作用によってならされてできた麓屑面なのだろう。足下の転石をみると、ときどき白っぽい花崗岩が見られるがほとんど黒っぽい変成岩だ。この変成岩は赤林山をつくっている岩石だ。

 正沢川の谷を左に見て幸ノ沢を登っていく。ときどき花崗岩の丸い巨礫が斜面に見られるが、これらは上流から土石流で運ばれてきたものだ。河床や斜面を削ったところでは黒っぽい変成岩が見られる。

 堰堤で川を渡って変成岩の斜面を登っていくと、四合目で背後の展望が得られる。ここからは、木曽駒高原スキー場の緩斜面や乗鞍岳方面の木曽谷が見える。

▲四合目からみた木曽駒高原スキー場
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■花崗岩と力水

 古い切り株のある自然林を登っていくと、砂質片岩の巨石がゴロゴロするようになり、急に花崗岩ばかりとなる。変成岩から花崗岩分布域に変わったわけだ。

 花崗岩の巨石が岩小屋のようになっている場所をすぎると四合半の力水につく。力水は、花崗岩の割れ目から湧く冷たくておいしい水だ。周囲にはトウヒやシラビソ、コメツガが茂っている。この自然の森がおいしい水を育んでいる。

▲花崗岩の割れ目から湧く力水
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■岩尾根からの展望

 六合目をすぎると麦草山や茶臼山がときどき見えるようになる。麦草山には駒石がかわいらしく見える。

 2386mの標高点は花崗岩の岩塔になっていて、シラビソの他にハイマツやシャクナゲも混じっている。ここから展望がすばらしい。茶臼山方面をみると、縞枯れの様子や行者岩の岩塔が観察できる。将棊頭山をみると、ハイマツの茂る高山帯とダケカンバや針葉樹が茂る亜高山帯との境界が一直線だ。駒ヶ岳方面は玉ノ窪カール末端に何列ものモレーンもしくはプトテーラスランパートがうねっているようにみえる。

 七合目には新しい避難小屋とトイレがある。北側の岩塔は木曽見岩と呼ばれている。ここから麦草岳へ登る直登ルートと山腹を巻いて赤林山へいく福島Aコースが分岐している。

駒ヶ岳と玉ノ窪カール
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■山姥の岩塊

 麦草岳の東を巻いていくと、花崗岩の岩場から湧く水場がある。ここから玉ノ窪カールまでは展望もよく、岩場や岩塊地など変化に富んでいて面白いところだ。

 とくに面白いのは山姥と名づけられた巨大な岩塊地だ。カールの末端付近に直径5m以上の花崗岩の巨石がゴロゴロしている。とくに先端付近により大きな巨石があってすき間が空いていて苔むしている。大きなすき間は岩小屋として利用できそうだ。上流側は巨石とハイマツとのコントラストが美しい。カール壁の花崗岩には垂直な節理が発達している。

 ところでこの岩塊はどのようにしてできたのだろう。氷河の侵食によって堆積したモレーンならもっと細かい砕屑物がないとおかしい。不淘汰な砂礫は岩塊地西側に分布しているので、これがモレーンなのかもしれない。モレーンの上に岩石氷河として運ばれてきた巨礫が覆っているのかも知れない。

 ここからは大棚入山もよくみえる。大棚入山の滑落崖は、一部植生がなくて岩塊斜面になっている。

巨石が積み重なる山姥
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■やせ尾根と玉ノ窪カール

 氷河の切り合ったやせ尾根は花崗岩の岩壁になっているため、桟橋や梯子がつけられている。この花崗岩は木曽駒花崗岩で暗色包有物がたくさん確認できる。節理に沿って割れた岩壁を見ると、このあたりの急傾斜地が節理面に規制されていることに気づく。

 八合目の水場を越えて岩塊地をしばらく行くと、玉ノ窪カールの平坦地に着く。ハイマツやダケカンバに覆われてわずかな高まりとなっているところがターミナルモレーンなのだろう。カールの上は岩塊斜面になっていて、ハイマツとのコントラストが美しい。すぐに南西側を石組みで囲んだ玉ノ窪山荘につく。

やせ尾根でみられる花崗岩の節理
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