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■小黒川(桂小場)コース

■将棊頭山と信大演習林

■山の神と線状凹地

■層状チャートと菫青石ホルンフェルス

■花崗岩の風化とマサ

■花崗岩の岩塔

■茶臼山の縞枯れ

■将棊頭山と天水岩

改変しつつある階状土

木曽駒ヶ岳山頂

 登山口から大樽小屋までは主に黒雲母片岩や粘板岩が転がっている。そのため、谷や道が全体的に黒っぽく、暗い感じがする。途中の野田場の付近で緑色岩、馬返しから標高2000mの間にチャートが分布する。大樽小屋付近では花崗岩の接触変成でできた菫青石がめだつようになる。

 六合目から七合目にかけては弘法石や津島神社の巨石がゴロゴロしている。これらはすべて木曽駒花崗岩からできている。ハイマツがでてきて、伊那市の市街地が見えるようになると、主稜線はもうすぐだ。

 主稜線にでると急に高山景観が広がって、駒ヶ岳や茶臼山、御嶽山が目の前に見える。西駒山荘から駒ヶ岳までは稜線歩きとなり、花崗岩の造形、カールやU字谷、構造土などの周氷河地形を楽しむことができる。


▲桂小場−木曽駒ヶ岳のマップ(カシミール3Dを利用)

■将棊頭山と信大演習林

 小黒川上流には信州大学の演習林がある。野田場の手前からは、このみごとな自然林を将棊頭山と一緒に遠望することができる。山の斜面の自然林をよくみると、垂直方向に植生が変化していく様子がよく分かる。

 このあたりは地形的にも面白い。将棊頭山から下ってくる沢が水平に伸びる尾根にさえぎられて、東へ大きく屈曲している。この尾根の上にはもしかしたら河床礫があるかも知れないと思って、以前調べてみたが、尾根の先端(東)付近に見つかっただけだった。上流側には花崗岩、下流側の屈曲部や水平に伸びる尾根には変成岩が分布しているので、岩相境界が差別侵食によって掘りまれてできた地形かもしれない。

▲尾根から見た将棊頭山
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山の神と線状凹地

 馬返しには、すでに廃道となった権兵衛峠への標識がある。権兵衛峠へのルートは、頭まですっぽりと入るほどのササが生い茂っているので、安易に入るとたいへん危険だ。

 東側には、線状凹地を隔てて、山の神様が祀ってあった。ここから東へ派生する尾根は、途中でやや傾斜が緩やかとなるところがある。このあたりは等高線間隔が広くなったり狭くなったり、傾斜が異常にみえる。

▲馬返しにある山の神
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層状チャートと菫青石ホルンフェルス

 白川分岐付近からは傾斜が急となる。これは、山をつくっている岩石が、軟らかい粘板岩から硬いチャートに変わったからだ。

 チャートはほとんど二酸化珪素からできていて、非常に緻密で硬い岩石だ。もともとは、大洋にだたよっている放散虫などの珪酸質の殻が沈殿してできたものだ。この付近のチャートは花崗岩の熱の影響をうけているので、放散虫の殻を確認することはできない。

 チャートの分布域をすぎると、転石は再び粘板岩となるが、前とちがって表面にぶつぶつと小さな穴が空いている。これはおそらく菫青石の斑状変晶が風化して抜けてしまった穴なのだろう。

▲層状チャート
▲変成鉱物ができた粘板岩
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花崗岩の風化とマサ

 大樽小屋をすぎると白っぽい花崗岩の転石がでてくる。この花崗岩は木曽駒花崗岩と呼ばれていて、暗色包有物をよく含んでいる。

 花崗岩は他の岩石と比べて風化しやすい。とくに温度変化を繰り返し受けると、構成している鉱物の膨張率が異なるので、鉱物粒子の境にひびが入っていき、ついにバラバラとなってしまう。このような結晶がバラバラとなってしまった粒の粗い白っぽい砂を、マサと呼んでいる。

 花崗岩地帯に入ると、登山道沿いの侵食が目立つようになるが、これはマサが大雨の時の表面流によって流されてできたものだ。

▲登山道沿いの侵食と花崗岩
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■花崗岩の岩塔

 茶臼山と将棊頭山とをつなぐ稜線まで登れば、ハイマツとダケカンバがマサの白の中に映えてたいへん美しい。西斜面には背の低い針葉樹がハイマツに混じっているが、これらは強い西風で偏形樹となっている。

 展望も抜群だ。すそ野を広げた御嶽山が目の前にある。木曽駒ヶ岳から麦草山へかけての凹凸のある稜線も素晴らしい。三峰川扇状地とその右奥に鋸岳から甲斐駒ヶ岳も見える。経ヶ岳から坊主岳方面への稜線は、山並みがいくつも重なっていて重厚な趣がある。行者岩をのせた三角形の山も印象的だ。

 行者岩の花崗岩には北西−南東方向の垂直な節理が見られる。節理が密に発達すると、風化が進んで岩屑斜面やマサになってしまうが、間隔が広いと岩塔になりやすい。行者岩も節理がそれほど発達しなかったため岩塔になったのだろう。岩塔の南西側はすでに西側へ倒れかかっていて、地震がきたら落ちてしまいそうだ。茶臼山方面から岩塔をみると、座り込んだ行者のように見える。

 茶臼山へ登る木曽駒高原からの道は、長らく廃道となっていたが、最近地元の方々によって整備されたらしい。正沢川の徒渉点に吊り橋が架けられ、山頂に新しい祠が建てられている。

▲行者岩の岩塔
▲茶臼山方面からみた行者岩
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■茶臼山の縞枯れ

 八ヶ岳の縞枯山のように、茶臼山西斜面にも縞枯れのような立ち枯れが見られる。

 縞枯れとは立ち枯れとなった針葉樹が何列も平行に発達しているもので、その成因が長い間謎とされてきた。最近では、風衝地での倒木更新の一つと解釈されている。つまり、シラビソなどの針葉樹が成長して樹高が高くなると、強風をまともに受けるようになり、細い根が切られて立ち枯れしてしまう。すると、その背後が風を強く受けるようになるので、立ち枯れが斜面を上昇していく。立ち枯れの場所には、次の世代のシラビソの幼樹が育っていて、再び樹高が大きくなると立ち枯れするらしい。

 茶臼山の西斜面も西からの強風が吹き上げてくるために、縞枯れのような倒木更新をしているのだろう。

▲茶臼山西斜面の縞枯れ
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■将棊頭山と天水岩

 将棊頭山はその名の通り、ゆるやかな山頂部をつくっているので、どこが山頂なのか分かりづらい。山頂の標識やケルンがあるので、そのあたりが山頂なのだろう。

 山頂のすぐ南には天水岩がある。天水岩は2×4mほどの水平に割れた花崗岩の巨石で、この上には直径40cmほどの底の浅い円形の窪みがある。窪みには水がたまっていることが多く、これが天水岩の由来かも知れない。よくみると、他にも小さな窪みが二つある。こちらは円というよりも楕円だ。

 このような窪みは、凍結融解による侵食作用の一つでグナマというものらしい。

▲将棊頭山山頂のケルン
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改変しつつある階状土

 土壌が凍結融解作用を受けると、地表に奇妙な模様ができる。緩やかな斜面が階段のようになる階状土もその一つだ。

 階状土は、凍結した土壌が融解するときに、地表付近の水分をたっぷり含んだ土壌が、その下の凍結層から離れて斜面下方へずるずるとすべっていく現象だ。緩やかな斜面では階状土になり、傾斜が強くなると、ソリフラクションローブになるらしい。階状土は移動する土壌の末端が、矮小木の植生によって動きを止められている。

 登山道の下にある階状土では、登山道から流れ出る表流水によって侵食されたり、マサが堆積したりして、改変しているように見える。

▲階状土
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木曽駒ヶ岳山頂

 木曽駒ヶ岳山頂には一等三角点が設置されていて、北アルプスから八ヶ岳、南アルプスなど360°の展望が得られる。付近には伊那と木曽の二つの駒ヶ岳神社の奥ノ院が祀られている。また、石組みの跡もあって、かつては宿坊のような建物が山頂にもあったのかも知れない。

 山頂部は大小の花崗岩礫がゴロゴロしている砂礫地で、広い緩傾斜地となっている。これは人為的な植生破壊も関係しているのだろう。

▲木曽駒ヶ岳山頂
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