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 ■■■地形・地質観察ガイド-低山・渓谷地域-■■■
 鳥倉山 夕立神展望台、鳥ヶ池キャンプ場〜鳥倉山
 
 鳥倉山(2023m)は、全山が緑色岩からなる山だ。途中の夕立神展望台付近では、鮮やかな緑色の岩石がみられる。緑色岩は小渋川をはさんで対岸の青田山へもつづいている。鳥倉山も青田山も山頂は丸くて穏やかであるが、緑色岩を掘り込んだ小渋川は両岸がV字形の峡谷となっている。鳥倉山周辺には展望ヶ所が多い。小渋の谷が一直線に赤石岳へ向かい、また逆方向に伊那山脈をも削り込んでいるからだ。夕立神展望台では、赤石岳方面だけでなく、中央アルプス南駒ヶ岳方面の展望まで得ることができる。ここでは、鳥倉林道沿いでみられる地形や岩石を観察しながら、鳥倉山を周遊するコースを紹介しよう。ただし、鳥倉山周遊の遊歩道は最近整備されていないので、道が非常にわかりづらい。

■大西山の崩壊

■鳶ヶ巣の崩壊と上蔵の地すべり地形

■夕立神展望台 

■鳥倉山周遊ハイキング 

▲鳥倉山の三角点
 


 

■大西山の崩壊 

 鳥倉林道は大河原から鳥倉山の山腹をとおり、豊口山のすぐ近くまでいく車道である。この林道を大河原からぐんぐん登っていくと、まず左手に目につくのが大西山の崩壊である。
 大西山の崩壊は、昭和36年の梅雨前線集中豪雨の時に発生し、死者42人の大惨事となった。崩壊地の地質は、主に中央構造線に沿って分布するマイロナイトである。マイロナイトは節理(割れ目)が多く、脆くて硬い岩石である。そのため、割れ目の水圧が高まったり重力的に不安定になると、節理に沿って前のめりに崩れやすい。
 崩壊を目撃した人の話によると、最初に岩盤が裂けて、屏風が倒れるように傾き、下の方が腰砕けになって崩れたという。そして、崩れた岩屑は小渋川の水を巻き込んで、津波のようにものすごい勢いで対岸の文満集落を襲った。そのスピードは時速60kmと見積もられている。
 今でも小さな崩壊を繰り返していて、荒々しい姿をとどめている。一方、堆積した岩屑の小山には桜が植えられ、大西公園として整備されている。
 
▲大西山の崩壊地

■鳶ヶ巣の崩壊と上蔵の地すべり地形 

 さらに登っていくと、小渋川の対岸に黒っぽい崩壊地と足下に馬蹄形に窪んだ上蔵の集落がみえるようになる。
 鳶ヶ巣の崩壊地は三波川帯の蛇紋岩からできている。蛇紋岩はカンラン岩が変質してできた蛇紋石という鉱物の集合からなる岩石だ。蛇紋石は粘土鉱物の一種で、ツルツルとすべりやすい性質をもっている。そのため、地すべりや崩壊が起こりやすい。
 上蔵は緑色岩の地すべり地帯にある古くからの集落だ。民家や水田の土手の石垣は、ほとんど緑色岩の角礫からできている。地すべり地帯は急傾斜する山腹に耕作可能な平坦地をもたらし、滑落崖からの湧水も豊富なため、上蔵のように集落が発達しやすい。
 
▲鳶ヶ巣の崩壊地と上蔵

■夕立神展望台 

  この展望台付近には、鮮やかな緑色をした緑色岩が広く分布している。岩石採集にはうってつけの場所だ。
 また、展望台からは小河内岳をはじめとして、荒川前岳、赤石岳などの主稜線の山々が間近にみえる。また、反対方向には伊那山脈、中央アルプス南駒ヶ岳がみえる。正面には小渋川の谷をはさんで茶臼山塊が連なっている。
 
▲夕立神展望台からみた赤石岳

■鳥倉山周遊ハイキング 

 鳥倉林道から離れ、キャンプ場へいく林道をたどると、鳥ヶ池キャンプ場につく。さらに林道を行くと尾根を回り込んだ地点でパラグライダーの発着所につく。ここからは、西側の展望が雄大だ。
 この付近から左のササに入り、原生林とカラマツ植林地との境付近に着けられた遊歩道を行く。しかし、最近は整備されていないため、荒れるにまかされている。さらに、獣道が縦横に走っているため、たいへん分かりづらい。広い山頂の一角にでるとまもなく二等三角点のある山頂である。西面は原生林で、東面はカラマツの植林地である。
 尾根沿いに北東へ進むと窪んだ湿地にでる。ここに鳥ヶ池がある。降水が少ないときだと池は干しあがってしまっている。ここから小さな開いた谷に沿って下っていくと林道終点にでる。ここには冷たい湧水がわき出る絶好の水場がある。さらに沢に沿って左岸側につけられた遊歩道をたどっていくとキャンプ場東側の林道にでる。
 
▲干上がってしまった鳥ヶ池