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■福島Aコース

■上松断層の断層鞍部

■変形した礫岩と木曽見台

■線状凹地

■岩塊の動きをとめる針葉樹

 このルートは長くて単調な尾根道なため、下山に利用することの多いコースだ。

 六合目から麦草岳に登って玉ノ窪小屋にでることもできるが、一般には七合目の避難小屋方面への巻き道をたどり、福島Bルートに合流して山頂をめざす。ここでは上松断層の地形変換線を出発して、避難小屋のある七合目までの道を紹介しよう。

 上松断層のつくる地形や変成度の弱いさまざまな岩石、花崗岩との境界を探ってみよう。崩れる準備段階の線状凹地も観察できる。


▲伊勢滝−木曽駒ヶ岳のマップ(カシミール3Dを利用)
■上松断層の断層鞍部

 福島Bコースの登山口は、ちょうど上松断層の地形変換線の場所にある。樹木をさけて南と北の方角が見えるところに行けば、上松断層のつくった断層鞍部を観察できる。

 南側の断層鞍部付近の地形図をみると、断層をはさんで地形に顕著な違いがあることに気づく。一つは断層の東側は傾斜が急で西側は傾斜が緩やかであること。とくに尾根部で顕著だ。次に断層の東側を流れてきた5〜6本の川が、断層付近で合流して2本にまとまって西側へ流れていくこと。さらに断層西側の丘陵からはじまる谷が3本もあることだ。

 この3本の内、北側の谷は緩やかな河川勾配のまま両岸を掘り込んで駒の湯まで2km近くつづいている。この谷は上流部が切られた形をしている。おそらくこの谷は、北側を流れる八沢川の方が侵食力が強かったため、脆くなった断層付近で八沢川に上流部を奪われてしまったのだろう。このような現象を河川争奪という。これらの複雑な地形はすべて上松断層と関係しているようだ。

▲上松断層の断層暗部
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■変形した礫岩と木曽見台

 赤土を載せた山麓緩斜面を登っていくと砂岩や礫岩が分布するようになる。礫岩の礫はやや変形して一方向に伸びているように見える。しかし、変形の程度は伊那谷に分布する礫岩と比べると弱いようだ。

 アカマツ林からシラカバやミズナラなどの雑木が出てくるようになると泥岩が分布するようになり、峠にでる。ここから尾根を少し戻ると、木曽見台につく。ここは上松断層によってできた三角末端面の上端だ。そのため、御嶽山方面の展望がたいへん良い。

▲やや変形した礫岩
▲木曽見台
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■線状凹地

 分岐点にもどり斜面を巻いてから急傾斜地を登っていくと珪質泥岩や凝灰岩がでてくる。これらは泥岩と比べて固いので、尾根上の突起をつくっている。

 さらに登っていくと平坦な広い尾根がでてくる。西側には尾根と同じ南北方向に線状凹地ができている。この凹地を横切るとベンチのある四合目につく。このあたりは倒木が多い。

 赤林山は山頂をとおらずに山腹を巻いていく。このあたりは砂岩が広く分布している。砂岩は泥岩に比べると固くて侵食に強いため、赤林山のピークをつくっているようだ。途中で珪長質な貫入岩が見られる。

 泥岩の分布する鞍部をすぎて尾根を登っていくと、再び線状凹地がでてくる。ここでは西側が滑り落ちているように見える。五合目をすぎると2150mの鞍部がでる。この付近が堆積岩と木曽駒花崗岩との境界だ。

▲線状凹地(左)とシラビソ林
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■岩塊の動きをとめる針葉樹

 花崗岩は節理に沿って割れやすいため岩塊が生産されやすい。そのため花崗岩地帯にはいると急に岩塊が目立つようになる。岩塊地は崩壊地やカール壁の下方にできやすい。尾根部では岩塔周辺などでできる。ここの岩塊地の場合、上方に崩壊地や岩塔などは見られないが、その代わりに線状凹地が見られる。岩塊を生産した岩塔などはすでに谷へ崩れ去ってしまったのかもしれない。岩塊は亜高山帯針葉樹の原生林に覆われていて、しっかりと根で固められている。岩塊地はおそらく植生のなかった氷期に形成されたものだろう。

 木曽駒花崗岩特有の暗色包有物は表面から飛び出したり、分離して転がったりしている。これは花崗岩よりも侵食に強いためだ。

 六合目で麦草岳へ直登するルートと別れ、七合目の避難小屋方面へ行く巻き道をたどる。谷筋は巨礫が埋めているが、水場が2ヶ所ある。

▲岩塊を覆うトウヒの根
▲飛び出す暗色包有物
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